ピンク色の研究室

小保方晴子はあまりにも堂々としていた。記者会見で、嘘でまみれた研究成果をドヤ顔で話し始めた。

「体細胞には強い外部刺激が加わると初期化する能力がある、という隠された細胞の初期化メカニズムを発見しました。」(小保方晴子)

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出所:http://www.newsweek.com/haruko-obokata-who-claimed-stem-cell-breakthrough-found-guilty-scientific-239000

また、共同研究者で理研副センター長でもある笹井芳樹は得意げにIPS細胞をディスった。格下だったはずの、山中伸弥 京都大学教授に先を越され激しい嫉妬心を抱いていたからだ。2012年に山中教授は、IPS細胞で、ノーベル医学・生理学賞を受賞した。

「IPS細胞が究極のリプログラミングじゃないと思っていた」 (笹井芳樹)

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出所:http://www.cdb.riken.jp/jp/04_news/articles/10/100917_sasaiprize.html

これまで分子生物学の世界では、分化した体細胞を未分化の状態に戻すには核移植や転写因子を導入するなど細胞の核を直接操作することが必要であると広く信じられてきた。小保方晴子らの論文はこの常識を覆したとして、大いに注目された。

「ここで我々はSTAPとよばれる、核移植も転写因子の導入も必要ないユニークな細胞のリプログラミングを報告する」(小保方晴子、若山照彦、笹井芳樹、他)

Here we report a unique cellular reprogramming phenomenon, called stimulus-triggered acquisition of pluripotency (STAP), which requires neither nuclear transfer nor the introduction of transcription factors.
出展:”Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency,” Nature, Vol. 505, 30 January

小保方晴子らによると分化した体細胞に刺激を与えることで、「簡単」に万能細胞を作ることができる。このうら若き女性研究者は一般人からは「女子力」の高いリケジョとして、もてはやされ、同業の分子生物学者からは、嫉妬と羨望の入り混じった眼差しで、見られることとなった。しかし、それは長くは続かなかった。まるで、空高く舞い上がった風船が破裂して落下してくるようだった。

ピンク色の研究室 (第1話)

※ これは事実をもとにしたフィクションです。筆者の想像および小保方氏による捏造が含まれており、一部事実とは異なる箇所があります。

分化とは

小保方晴子の研究成果を議論するうえで、「分化」というキーワードが頻繁に登場するが、まずこのれを理解しなければならない。分化というのは細胞に役割を持たせることである。生物は最初受精卵 1個の細胞であり細胞分裂を繰り返すことによってその数を増やしていくが、細胞数が増えてくると、やがて、役割分担をするようになる。ある細胞は心臓の細胞として、またある細胞は目の細胞として。そして、哺乳類では、一度役割が決まると、通常は役割を変えることができなくなるのだ。一方で、植物や下等生物では、分化した細胞でも一定の条件下で未分化の細胞になることができることが知られていた。

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(参考)プラナリアをバラバラに切断すると、切断片から完全な個体ができる

出所:http://www.cdb.riken.jp/jp/millennium/2_1.html

小保方晴子らはある仮説を立てた。

「興味深い論題は動物の体細胞が特別な条件化で現れる同様のポテンシャルを持つかどうか」(小保方晴子、笹井芳樹、他)

A challenging question iswhether animal somatic cells have a similar potential that emerges under special conditions.
出展:”Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency,” Nature, Vol. 505, 30 January

動物の細胞も植物と同様に外部から刺激を与えるだけで、多能性を発揮するのではないかということだ。

どうやって証明するか

「CD45ポジティブである造血細胞は運命が決定づけられた典型的な細胞であり、リプログラミングされない限り Oct4のような多能性細胞がもつマーカー遺伝子を発現することはない。それで、我々は脾臓のCD45+細胞が化学物質による刺激のような劇的な外部環境の変化で、多能性を獲得できるかどうかという論題に取り組んだ」

Haematopoietic cells positive for CD45(leukocyte commonantigen) are typical lineage-committed somatic cells that never express pluripotency related markers such as Oct4 unless they are reprogrammed. We therefore addressed the question
of whether splenic CD45+ cells could acquire pluripotency by drastic changes in their external environmentsuch as those caused by simple chemical perturbations.

出展:”Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency,” Nature, Vol. 505, 30 January

笹井が考えたシナリオはこうだ。

  1. 刺激をあたえることで、多能性細胞の特徴であるOct4が発現する細胞をつくる
  2. できた細胞が確かに体細胞由来であることを示す
  3. STAP細胞が本当に多能性をもつことを示す

まずこの実験でCD45+細胞を使っている理由が②を証明するためだ。CD45+細胞とは、白血球共通抗原のCD45ポジティブである造血細胞(Haematopoietic cells) のことだ。CD45+細胞は、既に分化しており、初期化(reprograming)されないかぎり、Oct4のような多能性細胞に特有のマーカーを発現しないからだ。

まず実験の準備として、晴子はマウスの脾臓から、CD45陽性リンパ球を取り出した。このマウスは、Oct4遺伝子が発現すると蛍光を発するように遺伝子操作されおりOct::GFPマウスと呼ばれる。Oct4::GFPマウスを使ったのは、取り出した細胞が、初期化されて多能性細胞になれば、光を発して知らせてくれるからだ。

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出展:”Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency,” Nature, Vol. 505, 30 January

晴子はCD45陽性リンパ球に物理的な刺激や化学的な刺激を与え観察する実験を繰り返していた。この数か月は失敗続きだった。昨日も深夜まで実験をしていて、もうクタクタだった。刺激を与える方法を変更してから3日目の夜、特に期待するわけでもなく、シャーレを観察しにいった。緑色に光っている細胞が見えた気がした。いや、それは確かに緑色を発していた。まるで、メールの着信を知らせるスマートフォンのように、静かに蛍光色を発して、晴子にその存在を主張していた。

STAP2

出所: “Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency,” Nature, Vol. 505, 30 January (筆者が一部修正)

STAP3

出所: “Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency,” Nature, Vol. 505, 30 January (筆者が一部修正)

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