鎌倉シャツ

 日曜の午後、チノパンにシャツ、紺のジャケットという出で立ちで僕はJR有楽町駅で電車を待っていた。今日は日曜だったけれど仕事があったからだ。シャツは鎌倉シャツで買った水色の厚手のオックスフォードシャツだ。僕は鎌倉シャツを愛用している。品質が良くて、値段も高くないからだ。ボタンが貝ボタンというところも気に入っている理由の一つだ。

しかし、僕が今、貴重な時間を割いて筆を執っているのは鎌倉シャツの良さを語るためではない。鎌倉シャツの貝ボタンのせいで僕が体験した恐怖をこのブログに書き残しておきたかったからだ。

15時頃、電車に揺られながら、僕はバーバラミントの「考える技術・書く技術」を呼んでいた。コンサルタント必読の書だ。僕が立っていたちょうど前の席には、金髪のポニーテールの派手な化粧をした25歳くらいの女性が座っていた。いかにも気が強そうな女性だ。品川駅あたりで彼女は席を立ち、別の車両に移って行った。僕は特に気にせずその空いた席に座り、本を読み続けた。

何かを1~2ページ読んだけれど、実際には1語も頭に残っていなかったという経験は誰にでもあるでしょう。頭の中にあった雑念を追い払っていなかったからです。したがって、読み手の頭の中の雑念を追い払い、あなたの伝えようとすることに集中しやすくする、そのような仕掛けを読み手に提供する必要があります

(出展:考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則

なるほど、と僕は思った。この本を読むのはもう3回目だが、まだまだ学ぶところはたくさんある。

「あなた、さっき下半身だしてましたよね。オトナとして恥ずかしくないですか。」

女性の声が僕の集中を破った。ちょうど恵比寿駅に着いた時だった。顔を上げると、さっきの金髪のポニーテールの女性が、僕を睨みつけていた。「はぁ、、出してないだろ」と温厚な僕にしては珍しく、語気を荒げて答えた。と同時に死を覚悟した。自分の将来を考えて凍りついた。性犯罪で捕まることは社会的に抹殺されることを意味する。仕事をクビになるだろうし、周囲の人からも白い目で見られるだろう。もちろん僕はそんなことをしていないし、そんな性癖もない。でも、そんなことは関係ない。こういう状況になったら男性は圧倒的に不利だ。事実、多くの男性が痴漢の冤罪の被害を受けている。

ポニーテールの女性は電車から降りた。駅員を呼びに行ったと僕は思った。もしかして、チャックが開いていたのかな、と思った。でも開いていなかった。完全に閉じていた。僕は呆然としていた。1分後、扉は閉じて、何事もなかったように出発した。助かった、と僕は思った。あの女性は人違いをしたのか、頭がおかしいのかと僕は思った。何はともあれ、僕は一命を取り留めたのだ。

気を取り直して僕は再び本を開いた。でも、まったく頭に入ってこなかった。頭の中が「雑念」でいっぱいだったからだ。JR新宿駅で僕は降りた。高層ビルが立ち並ぶ大都会だ。僕は西口を出て、ビックカメラに向かって歩きながら、何気なく、おなかのあたりに手をやった。

謎はすべて解けた!!松沢英俊、犯人はお前だ!

あの女性は人違いをしたわけでもなく、頭がおかしかったわけでもなかった。ただ見間違えただけだった。あの女性が見たのは僕のヘソとその周辺に生えたギャランドゥーだった。シャツのベルトのちょうど上の部分の貝ボタンが取れて無くなっていて、ぱっくり開いていた。

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